最近はグーグル翻訳などがあり、それなりに英文法を間違えずに整えてくれます。また英語の詳しい人にチェックしてもらって、文法的には間違えのないアブストラクを論文提出の際には出してくれています(そうと信じたい)。

しかし、「文法的に通じている=内容が通じている」とは限らないということで、読んでも全く意味不明・・・というものを出す人が少なからずいらっしゃいます。多くの人は、日本語の論文の要約部分を、そのまま英文の翻訳にかけてしまいます。それですと、意味が分からない文章になってしまうことが多い、ということに気を付ける必要があります。

では何を見本に?というところですが、実証分析で有名なWatts and Zimmermanの Positive Accounting Theory: A Ten Year Perspective(Watts, Ross L.; Zimmerman, Jerold L.
The Accounting Review; Jan 1990; 65)の論文を例に解説していきます。英文アブストラクトを書く際には、名著とされる論文を参考にするのをお勧めします。形が重要なのであって、古い新しいはあまり重要ではありません。名著は大体、シンプルな文法で分かりやすく書かれています。なお、上記の論文は検索すればフリーでダウンロードできると思います(2018年3月1日現在ではできました)

まず意識してほしいのは、この論文の目的部分を明確に書くことです。Watts and Zimmermanではどう書かれているか見てみましょう。

「This paper reviews and critiques the positive accounting literature following publication of Watts and Zimmerman(1978,1979). 」

「1978年と1979年に発表された実証会計論文をレビューし、批評することにある」

というように最初にこの論文の目的が述べられていることです。
また文法もSVO(主語+動詞+目的語)の形です。まずこうしたシンプルな形で英文を作成してください。 翻訳機にかけると見事な文法で書いてくれたりしますが、はっきり言ってその時点で、もう訳の分からない文章になってます。

*実証分析系の論文などであれば、ここにどういった分析手法、サンプルを使ったかを書くとよいでしょう。 そして次に論文の背景、問題意識、目的になります。みていきましょう。

「The 1978 paper helped generate the positive accounting literature which offers an explanation of accounting practices, suggests the importance of ・・・」
「1978年の論文が実証会計論文を作成することに助けになったことが書かれています。」

Which以下はどのような実証論文なのかが説明されています。
さらに、 論文の背景として以下のように書かれています。
「The 1979 paper produced a methodological debate that has not been very productive.」
「1979年の論文があまり生産的でない方法論の議論を生んだ。」
これがこの論文の明確な問題意識であり、モチベーションといえるでしょう。

そして次はこの論文では何について論じられているのか、研究上の目的が書かれています。
「This paper attempts to remove some common misconceptions about methodology that surfaced in the debate.」
「この論文はその論争で表面化した方法論についてのいくつかの共通する誤った認識を取り除くことを試みている。 」

次は具体的な話、論文の内容に関する話(結果)が書かされています。
「It also suggests ways to improve positive research in accounting choice.」
「会計選択の実証研究を改善するための方法を提案している。」

「The most important of these improvement is tighter links between the theory and the empirical tests.」
「もっとも改善点は、理論と実証をより結びつけることにある。」

「A second suggested improvement is the development of models that recognize the endogeneity among the variables in the regressions.」
「2番目の改善点は、回帰分析の変数間の内生性を認識したモデルを構築することである。」
*(訳注)内生性とは、回帰分析の従属変数間の相関が高いこと。この内生性が生じている回帰分析のモデルに基づいて出された推定値は信頼できるものとはいえないため、分析上に対応する必要があります。
「A third improvement is reduction in measurement errors in both the dependent and independent variables in the regression.」
「3番目の改善点は、回帰分析の独立変数と従属変数における測定誤差を減少することにある。」

これで終わりです。どう感じましたか?シンプルに書かれていることに驚いたのではないでしょうか?
これは短いアブストラクトなので、分量は、 背景、問題意識、目的などを必要に応じて増やせばよいと思います。 また、最後に論文の結論の貢献点や研究上の課題、今後の展望などを書くとよいと思います。 ただ、その場合も冗長にならないように気を付ける必要があります。

書き方は人それぞれなので、読めるアブストラクトを書いてもらえればそれでOKです。でも読めないアブストラクトは英文法として正しくても、それはNGであることを心得てもらえると助かります。

もう少し具体例を増やしながら解説を追加する予定です。

2018年3月1日
上野  雄史